NBA_ONLINE STRIP_0432.jpg

ヨハン・コボー インタビュー Johan Kobborg 


2021年2月6日、NBAバレエ団の「シンデレラ」が世界初演された。演出・振付は、元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのヨハン・コボー。主人公はバレリーナに憧れる少女で、王子は踊りの理想のパートナーを求めるスターでもあり、仙女はバレエの先生、継母はスタジオのバレエ・ピアニスト、そして道化がヴァイオリニストに重ね合わされている。「このバレエは、ヒロインがよいことも辛いことも経験しながら幸せを見つける“旅”」というコボーに、初演から一夜開けた7日、東京文化会館の楽屋でお話をうかがった。

NBA ONLINE_0430.jpg

―― まずは今の気持ちを聞かせてください
コボー:この状況で初演にこぎつけられたことを、とてもうれしく誇りに思っています。僕自身も自主隔離を経験したし、NBAバレエ団はいくつも公演のキャンセルを余儀なくされて、『シンデレラ』のための資金も消えてしまった。諦めてしまう方がよほど簡単だったのに、それでも実現できたのは、全員が公演をやりたいと強く願ったから。衣裳をすべて新調できないなら他の作品のものを一部使うなど現実を受け入れつつ、実現しました。世界的にも全幕バレエの新作上演がきわめて難しく、誰もが生の舞台を求めている今、本当に素晴らしいことで、肩の荷を下ろした気分でもあります。

―― 作品のアイディアは、どんなところから?
コボー:ロンドンのロックダウンで突然行動が制限され、まるでみんなが壁越しに生きているみたいになった。仕事の予定で埋まっていたカレンダーも真っ白になってしまい、僕は人生にとって何が大切なのかを考えさせられました。『シンデレラ』は夢について、幸せと幸せを手に入れることについての物語ですが、彼女にとっての本当の幸せはお城や王子様ではなく、ただ当たり前だと思っていることをして、日常を慈しみ、自分を信じて努力すること。そこからこの主人公に繋がりました。

そしてバレエは楽しめるものでなくてはならないけれど、社会を映し出すこともできる。多くの人が隔離生活で孤独を感じ、突如として友情がとても大切になった今だから、先生は「何かを伝授する」というより「支えてくれる」存在としました。助けるという愛のかたちは、恋愛と同じくらい大切で評価されるべきものだと思う。

―― シンデレラはバレエの才能と情熱に恵まれているけれど、はじめは傑出した存在ではありません。コボー:銀の匙(さじ)をくわえて生まれてくる人なんて、ほんの一握り。シンデレラも、一番の才能や美貌を持っていて完璧なわけではない。舞踏会で着る青いチュチュを最初に選んだときはお姫様 になった気分だったけど、行ってみると皆同じ衣裳で、自分は大勢の中の一人なのだと思い知らされます。それでも王子に認められようと踊る過程で、「自分はただ踊りたいのだ」と気づき、人々の視線も忘れて夢中になる。それこそが、王子や周りの人々の目を奪うんです。

―― 初日は高田茜さんが、シャイで自信のないシンデレラの目の醒めるような変貌を見せてくれました。特に第二幕のソロは、踊りの見せ場であると同時に、今おっしゃったシンデレラの内面的なターニング・ポイントでもありました。

IMG_0458.JPG

コボー:じつはこの星空の下でのソロは、元々はなかったんです。同じ曲をすでに前の方で使っていたし、何よりフレデリック・アシュトンの完璧な振付がすでにあるから。でもいざ振付がはじまると茜のテクニックが信じられないくらい強くて、それを見せるためにソロがあったほうがいいと考えるようになった。バレリーナになる夢が叶ったことも示す必要があったしね。

茜はスタジオで僕の意図をすぐ理解してくれたし、役作りのプロセス全体を他のダンサーたちに示してくれた。見て学ぶことはどんな言葉よりも強いから、彼女には本当に感謝しています。僕がロイヤルにいた頃リアム・スカーレットが振り付けてくれたパ・ド・ドゥを一緒に踊ったこともあったけど、今回改新しい環境で彼女と接してみて、人としてより深く知ることができた気がします。それから、二日目の(野久保)奈央のことは来日してから知ったんだけど、若いのに演技力もテクニックもあって、素晴らしいダンサーです。

―― 一方、王子は真っ赤なトウシューズに象徴される自分のイメージを追い求めていて、目の前の女性たちに見向きもしません。
コボー:理想に囚われて価値観が狭くなり、現実を見ない。これは今のバレエの世界を反映した部分でもあります。インスタグラム等には完璧な写真が溢れているけれど、これは空疎な理想で、大事な部分が欠落している。バレエというのは動くことであり、完璧であることではないんです。またオーディションの要項を見ると年齢や身長が細かく設定されているけれど、それによってどんなに多くの才能ある若者が締め出されていることか。
古典バレエの中で、物語の設定上女性の群舞が同じ身長でなくてはならない作品なんて、死んだニキヤの亡霊が何重にも見えるという『ラ・バヤデール』一つしかないんです。なのに「『白鳥の湖』でも揃えたら見栄えがするな」などと皆が考え出した。残念なことです。

―― シンデレラは夢を叶えた瞬間に現実に引き戻される。そして、自分を見守ってくれていたヴァイオリニストに手を取られて、静かにスタジオの扉を出ていきます。
コボー:シンデレラは成長し、もう誰かに頼ることなく生きていける。このエンディングにはロマンスの予感も込めました。愛というのは往々にして、求めていないときにやってくるものですよね。でも、「シンデレラの将来はこう」と決めつけたくはなかったんです。このバレエは彼女が幸せを見つけるための「旅」を描いたけど、人生そのものが旅であり、経験することには終わりがないんです。