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Northern Ballet - Dreda Blow and Javier Torres in Cathy Marston's Jane Eyre.


ジェーン・エア - Jane Eyre 




キャシー・マーストン振付によるノーザン・バレエの最新作を、デボラ・ワイスがリポートします。

文学愛好家で、シャーロット・ブロンテの記念碑的名作『ジェーン・エア』を知らないという人はまずいないだろう。だが読んだことはないという人でも、このバレエなら物語をたやすく理解できるに違いない。言語をダンスに翻訳してゆくマーストンの手腕は卓越しており、何より、動きによって人物像がありありと描き出されているからである。

 プロローグでは、成人したジェーンが何かよこしまな考えを振り払おうとしている様子が描かれる。彼女は何度も、おそらく彼女の内なる悪魔の反映と思われる8人の男(プログラムの記載は「D-Men」)に行方を阻まれ、こづきまわされる。倒れた彼女をある紳士(ジェレミー・カーニエ)が助け起こし、自宅に運び込んで妹たちとともに介抱する。次なるは、叔母の元でいとこたちの中で育てられたジェーンの回想で、ひどい虐待を受ける場面にインパクトがあり、観ているのが辛くなるほどの振付も多い。叔母の冷酷さやいとこたちの無神経さは背筋が寒くなるほどで、叔母リード夫人役のジェシカ・モーガン、いとこ役のジェニー・ハックウェル、アビゲイル・プルデイムス、マシュー・クーンは、控えめだが的確に、底意地の悪さを表現した。少女時代の傷ついたジェーンを演じるアントワネット・ブルックス=ドーズは、生き生きと、しかし内省的でストイックな側面を強調した役作りが劇的で、踊りにも強さと敏捷さがあった。



Northern Ballet - Victoria Sibson and Javier Torres in Cathy Marston's Jane Eyre.


 エドワード・ロチェスター役のハビエル・トーレスとジェーン役のドリーダ・ブローは、出会いの瞬間から言葉を必要としない結びつきを確立した。全編を通して、その絆は繊細で入念なニュアンスの表現により強まっていった。パ・ド・ドゥは、ロチェスターが最初にジェーンへの関心を表に出す場面、二人が戯れながら彼女の足を彼が掴むデュエットがともに、革新的で説得力があった。情熱が毛穴の一つひとつから溢れ出てくるよに感じたが、それは単にダンサーたちが深い感情を描きだしていたことへの反応というだけではなく、二人が首を寄せあい、身体を絡ませ、抑圧と結びつきを手の使い方で示す、振付そのものに与るものでもあった。

 第二幕はソーンフィールド邸での晩餐会で幕を開ける。そこで社交界の花ブランシュ・イングラムが当主であるロチェスターの気を引こうとするのを見て、ジェーンは臍を噛む思いをする。グレイス・プール(精神を病んだロチェスターの妻の看護をしている)の怪我で宴は中断され、招待客がそれぞれ寝室に引き取る中、ジェーンはその場に残りグレイスの世話をする。戻ってきたロチェスターが彼女の手を取ったところから、見応えのあるパ・ド・ドゥが始まる。慌ただしく挙げる結婚式は、だがバーサ・メイソン(ロチェスターの妻)の登場で中断。ヴィクトリア・シブソンの狂気の演技は迫真のもので、演劇的な視点からも一心不乱に跳びまわる動きの水準についてもまさに一級品、全編でもっとも心に残る場面だ。動揺してその場を逃げ出したジェーンを、牧師である従兄のセント・ジョン・リヴァースが見つけたところで、場面はプロローグへと回帰する。



Northern Ballet - Victoria Sibson, Javier Torres and Dreda Blow in Cathy Marston's Jane Eyre.


 彼はジェーンを妻にと望み、それを機に彼女はソーンフィールドへの愛を改めて確認し、彼の元へと戻る。だが最後には、驚くべき結末が待っている。屋敷はバーサ・メイスンによって放火され、ロチェスターは法律上の妻である彼女を救おうと盲目的な努力する。最後のパ・ド・ドゥは、互いにもたせかけあった首、繊細な触れ合いや有機的な動きが深く響きあい、逆境にある二人の愛の強さを描き出して悲哀に満ち、感動的だ。トーレスとブローのこの魅力的な舞台は、この先長くも心に残ることだろう。

 パトリック・キンマウスによる装置・衣装は、”語り”の点でも実用性という点でも驚くべき効果を上げ、アラステア・ウェストの照明デザインはそれと大きな相乗効果を上げた。同団およびセントラル・スクール・オヴ・バレエと長年仕事をしてきた才能豊かなフィリップ・フィ―ニー作曲・編曲の音楽は筋と緊密に連携しており、最も忘れがたいバレエ音楽とは言わないまでも、たいへん高いスキルを示した。マーストンは、ブロンテの原作小説の本質をいささかも損なうことなく、心に強く訴える劇的バレエを作り上げた。『ジェーン・エア』は全面的な成功作であり、同団のレパートリーにこれからも数シーズンにわたってとどまることだろう。 (訳:長野由紀)