RevJap_Frankenstein



The Royal Ballet - Federico Bonelli in Liam Scarlett's Frankenstein.
Photo: Emma Kauldhar by courtesy of the ROH


『フランケンシュタイン』- Frankenstein



 
リアム・スカーレット振付の、ロイヤル・バレエによる新作。デボラ・ワイスはこれを、高く評価しました。




 メアリー・シェリーの同名の小説に基づく『フランケンシュタイン』は、リアム・スカーレットがロイヤル・バレエのために初めて手がけた全幕バレエである。音楽はロウェル・リーバーマンに委託した新曲、素晴らしい(そしてところどころ恐ろしい)美術はジョン・マクファーレン、題材にふさわしい神秘的な照明はデイヴィッド・フィン、そして比類ない効果を上げたプロジェクションはフィン・ロスによるもので、ひじょうに立派な出来栄えの作品だった。何より満足させられたのは、舞台上で起こっていることを理解するために、観客があらすじを読む必要がなかったことだろう。筋の運びはじつに明快で、なにより、じつに面白かったのである。
 物語は登場人物たちの子供時代からゆっくりと語り起こし、やがてヴィクターとエリザベス・ラヴェンザ(ラウラ・モレーラ)の間に恋が芽生えるあたりから加速してくる。ドラマは堅固なものになり、比喩的な意味でもまた文字通りの意味においても爆発する。物語は陰鬱で、古典的なバレエに求められる死と生、愛と不正がふんだんに出てくる。そして、多くの映画版では怪物は良心を持たない凶暴なホラーの生き物として登場するが、スカーレットのバレエではクリーチャー(被造物)には悲哀の要素がある。クリーチャーは、周囲に適合し、創造者であるフランケンシュタインに愛されたいと望んでいるのである。その行為や凶暴さは教育のない子供のそれであり、彼の肉体には子供の精神が宿っているのである。



スカーレット振付『フランケンシュタイン』でのマクレイ
Photo: Emma Kauldhar by courtesy of the ROH


 第一幕では、ヴィクターの出産時に母が亡くなる場面と、彼がエリザベスに愛を告白し、インゴルシュタット大学に進んで解剖学を学ぶ様子が描かれる。スカーレットの振付は、伝統的な古典技法をベースとした、流れのあるもの。ヴィクターが進学のために旅立つ前にエリザベスと踊るパ・ド・ドゥは音楽的(スカーレットは常にそうである)かつ情熱的で、マクミランに影響を受けた部分もあるように見えた。マクファーレンによる解剖室の装置は、このバレエ全体の印象を決めたと言ってよい独創的なもので、ヒース・ロビンソン風の仕掛け、そしてクリーチャーの“誕生”に、目を見張らされた。居酒屋でヴィクターと友だちになったばかりのヘンリー・クラーヴァル(アレグザンダー・キャンベル)が娼婦に誘われる場面はやや表面的だったが、なんとしても母を蘇らせる方法を発見しようと決意するヴィクターがアウトサイダーであることを、はっきりと示す役割を果たした。この第一幕の結びは、まさしく見ものだった。
 ヴィクターは強い不安を抱いて故郷に戻って来る第二幕は、いろいろな意味で特に悲惨である。観客は、これ以上はないというほど不快な殺人を見せつけられ、またヴィクターが強迫神経症と鬱に陥っていくのを目撃する。エリザベス・マクゴリアンがパワフルに演じる家政婦モリッツ夫人の娘ジュスティン(ミーガン・グレイス・ヒンキス)が、無実の罪で処刑されるショッキングな場面もある。そして、これらの全てが驚くほど有効なのである。この幕にも情緒的なパ・ド・ドゥがあるのだが、ボネッリとモレーラは、二人の宿命を、感情を全開にして表現した。
 第三幕は、ヴィクターとエリザベスの不気味な結婚披露宴の場面である。音楽と振付はここでもたいへん伝統的で、様々な演出の『シンデレラ』やアシュトンの『ラ・ヴァルス』を思い起こさせるとも言えそうだが効果的で、マクレイのクリーチャーが自分の策に人々を誘い込んでいく様子に魅了された。



The Royal Ballet - Federico Bonelli and Steven McRae in Liam Scarlett's Frankenstein.
Photo: Emma Kauldhar by courtesy of the ROH


 ヴィクターの父アルフォンス・フランケンシュタインを演じたのは、ベネット・ガートサイド。その能力があますところなく発揮されていたとは言いがたいが、彼の一挙手一投足には価値がある。娘への罪悪感に苛まれるモリッツ夫人役のマクゴリアンは、恐るべき存在感を発揮した。ヴィクターの弟ウィリアム役のギレム・カブレラ・エスピナックは悲痛で、教授役のトーマス・ホワイトヘッド

は恐ろしく、ヴィクターの母キャロライン・ボーフォートを演じたクリスティーナ・アレスティスは優雅の極みだった。
 中心人物を演じたダンサーたちは、皆みごとだった。キャンベルは彼がロイヤル・バレエの貴重な財産であることを証明し、典型的なダンスール・ノーブルの物腰は欠くにしても、誰もが目を見張る踊りを見せる。クラーヴァル役としての彼は、驚くべき生気で観客の目を釘づけにした。マクレイのクリーチャーは悪夢そのもので、観るものを震撼させる役作りは、圧倒的という他ない印象を残した。心理的に傷めつけられたタイトル・ロールを演じたボネッリも、終始類まれな渾身の演技で、感情の途切れるところがなかった。モレーラは完璧で、彼女の踊るエリザベスの濃密な音楽性は、忘れがたいものだった。



The Royal Ballet - Laura Morera and Federico Bonelli in Liam Scarlett's Frankenstein.
Photo: Emma Kauldhar by courtesy of the ROH


 スカ―レットは細部にまで完璧な注意を払いながら原作の物語をみごとに「解剖」し、記念碑的な物語バレエを作り上げた。彼の登場人物たちには、その踊りに対しては敬意を、人物造形に対しては共感を抱かざるにはおれない。全幕バレエに観客が期待し求める全てが詰まった作品だった。(訳:長野由紀)