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Carlos Acosta in Will Tuckett's Elizabeth. Photo: Emma Kauldhar by courtesy of the ROH


タケットの『エリザベス』 Elizabeth




ロイヤル・オペラハウス内のリンバリー・スタジオで上演されたエリザベス一世をめぐる小品について、アマンダ・ジェニングズがお伝えします。 

 ロイヤル・オペラハウスにあるリンバリー・スタジオは、同歌劇場の“オープンアップ・プロジェクト”の一環として改修を間近に控えている。その閉鎖前の最後のプログラムとして上演されたのが、2013年にグリニッジにあるオールド・ロイヤル・ネイヴァル・カレッジでのガラで初演された『エリザベス』だ。複数の日程で再演されるにふさわしい佳品であり、じつによい演目の選択といえる。演出は振付も担当したウィル・タケット、台本はアラステア・ミドルトン。臣下からは慕われたが、ロマンティックな恋愛を希求しつつも果たせずに終わった偉大な女王の内面生活に分け入った魅力的な小品である。
 ミドルトンは、タケットが設定したのと同じエリザベス朝のテキストを選んだ。女王自身のしたためた文章、寵臣のレスター伯ロバート・ダドリー、サー・ウォルター・ローリー、エセックス伯ロバート・デヴァルーによるものが含まれ、その一部は、ダンサーが語句に従って動くのに合わせ、音楽(プログラムによれば、チェリストのラファエル・ウォールフィッシュの演奏、バリトンのデイヴィッド・ケンプスターの歌唱による)とともに、あるいは三人の俳優によって読まれたりする。難しい手法だが、タケットの演出は出演者の持つ様々な専門性を溶け合わせて継ぎはぎな印象がなく、正鵠を得たものと感じさせる。

 エリザベス役のゼナイダ・ヤノウスキーは、まるでこの役を踊るために生まれてきたかのようだった。生来の威厳を感じさせる体型に、頬骨の秀でた貴族的な顔立ちに絶え間なく動き表現力豊かな瞳というゴージャスな面差し。それらが一つとなった彼女の個性は、この役にとって完璧なものだ。そして彼女はまた、深みと洞察力を備えた女優でもある。哀れなエリザベス一世の矛盾した内面生活、激しい虚栄心によってたわめられる愛への渇望、そして結局は全てに優先する国家への義務感と愛を、燃えるような情念をもって描いた。



Zenaida Yanowsky in Will Tuckett's Elizabeth. Photo: Emma Kauldhar by courtesy of the ROH


 共演者がカルロス・アコスタというのも、天才的な発想だ。ヤノウスキーの方が長身なので、彼の演じた複数の崇拝者たちにおもねることのなかったエリザベスのそそり立つような権威が強調される。
 アコスタが演じた人物とは、次の男たちだ。エリザベスの異母姉メアリー女王の訃報を伝えるサー・ニコラス・スロッケンモートン。エリザベスと結婚するために妻を殺したともされるが、後に女王から拒絶されることになるロバート・ダドリー。戦死しなければ夫となってといたかもしれないアンジュー伯フランシス。アイルランド統治を巡ってエリザベスを失望させた後、スロックモートンの娘を身ごもらせて結婚したローリー。そして若き頃年上のエリザベスに恋したことから野心に身を焼き、そのために失墜していったエセックス伯。
 これらの役が一人ひとりはっきりとした違いをもって描かれていたことは、アコスタのカリスマ性や演技力と同時に、タケットの振付技術の高さを証明するものでもある。求愛し始めた頃のアンジュー伯の間の抜けた道化ぶりはアコスタの踊りの男性的なところと結びつき、ローリーは尊大にふんぞり返り、エセックス伯はエリザベスの愛を求めて、また権力への渇望から苦悶する。アコスタは内面の苦しみをシリアスに表現しつつユーモアも加えて、巧みに複数の人物を演じ分け、一方では息を呑むように精度の高いピルエットを続けてみせる。なんと素晴らしいアーティストなのだろう。
 ヤノウスキーとアコスタをさらに輝かせたのは、ソーニャ・カリンフォード、ジュリア・ライトン、そしてみごとな声をした名女優であるだけでなく、マース・カニンガムのもとで学んだダンサーでもあるローラ・コールドーの存在だ。フェイ・フラートンの衣装は豪華で、光沢のある布を使ったエリザベス朝の時代衣装の軽量版の趣き。ポール・コンスタブルの繊細な照明が、その効果をいや増した。一方、美術はシンプルで、暗いスペースにいくつかの現代的な電灯が下がっているだけで、金色とバーガンディのみごとな背景幕は、高級ホテルかレストランに使われていても違和感のないものだった。
 才気あふれるこの作品は私たちに、振付家に真の劇場的感受性が備わっており、音楽を知的に用いて動きを導き出せ、趣味のよさと観客への敬意をみじんも放棄することなく革新を行う方法を知っているときに何が可能なのかを教えてくれる。もっと目を引くステップ・のコンビネーションやバレエの地平を押し広げるようなリフトを編み出せる人もいるだろうが、タケットが使いこなしている種類のスキルは希少である。彼の叡智が、ときにダンサーの身体を限界以上に駆使することばかりにとらわれ、芸術作品を生み出すことへの関心がおろそかになっているように見える若い振付家たちへと継承されていくことを、望むばかりだ。(訳:長野由紀)