RevJap_Babylon



黄金の衣装の太陽(長瀬直義、中央)、雲の男ヴォルケ(高橋竜太、右下)、闇(工藤加奈子、矢島みなみ)


高橋竜太振付『BABYLON』




これは、現代のお伽話か。入口で手渡されたパンフレットの物語に目を通した途端、ガブリエル・ガルシア=マルケス風のマジック・リアリズムを想起させる愛の寓話に目を奪われた。そして実際の幕が開いてみれば、Art ClimbersWorks出演のこの新作は、期待を裏切らない魅力的な全二幕だったのである。

昼は灼熱の太陽に、夜は静謐な月の光に照らされる、砂漠の街バビロン。そこに住む青年シンがひとつの切り株を丹精するうちに、やがて白い花が芽生え、美しい女性フルールへと姿を変える。二人はまもなく恋に落ちるが、雲の神ヴォルケの気まぐれから、フルールは太陽に引き寄せられて行く。打ちひしがれたシンはもはや大地に水をやることもなく、街は干ばつで荒れ果てる。街の人々はついに太陽に戦いを挑み、その惨状に自らの過ちに気づいたフルールが涙を流すと、街には慈雨が降り注ぎはじめる。彼女はもはやシンの元に戻ることはできないが、彼の切り株には新たな花が芽吹き、生命を繋いでゆく−−



切り株に水をやるシン(梅澤紘貴)


高橋竜太の振付は、一つひとつの踊りを長くとって見応えがあり、各役の個性や情景も動きによってしっかりと表現されている。特に感銘を受けたのは、暗闇の中、太陽の一筋の光に導かれたフルールと、彼女を見失い憑かれたように逆の方向へと進むシンが、それぞれ四つん這いになってすれ違い離れていく場面。なんという切なさと、美しさか。そしてそれだけでなく、このような心理的深みとインパクトを備えた演出を第一部の幕切れにぶつけてくる高橋の力量に、舌を巻いた。



シン(梅澤)とフルール(高木綾)


高橋自身の演じたトリックスター的なヴォルケを初め、キャストも申し分なく強力だ。シンの梅澤紘貴は、愛すること以外に何も力を持たない詩人的キャラクターを繊細に、しかも現代的なシャープさをもって表現。一方、太陽役の長瀬直義は独裁者的な風格をスケールの大きな踊りで現し、しかも妖しく強引な魅力がある(この太陽神を拒絶できる女性なんて、いるのだろうか?)そしてヴォルケのいたずらから二人の男性の間で翻弄されるフルール役の高木綾は、なぜ自分が人々に求められるのかもわからぬまま、その実自分が混乱の火種となっていく無垢な白い花そのもの。しかも、踏みにじられるままではない根源的な生命の強さを、確たるテクニックによって印象づけた。

『シェエラザード』を中心にリムスキー・コルサコフの楽曲を編んだ音楽も、歴史の時空の狭間のどこかに存在していそうなエキゾティックな場所、苛烈な気候とそこで起こっても何ら不思議ではない濃厚なドラマを盛り上げて、たいへん効果的だった。4月29日、狛江エコルマホール。