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世界バレエフェスティバル『ドン・キホーテ』での、コジョカルとムンタギロフ© Kiyonori Hasegawa


14th World Ballet Festival




三年に一度、各国のスター・ダンサーが集う世界バレエフェステイバルが 開幕した。今年は第14回。2003年の第10回からは毎回、本編の始まる前に全幕特別プログラムとして東京バレエ団の『ドン・キホーテ』全幕が上演されてきた。その時々の注目のスターや新鋭がその中心を踊ってきたが、今回主演したのは、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)のアリーナ・コジョカルと、英国ロイヤル・バレエ団のワディム・ムンタギロフ。日本での全幕バレエの共演はこれが初めてだが、一時期同時にENBに所属していたこともあり、二人の息はぴったり。見せ場ではそれぞれの目の覚めるようなテクニックの応酬もあり、会場の東京文化会館は沸きに沸いた。

原作はもちろん、セルバンテスの同名の小説。ただしバレエでの主人公は、バルセロナの旅籠の看板娘キトリである。彼女は青年バジルと恋仲だが、父親は大反対で、娘を金持ちのガマーシュと結婚させようとやっきである。二人の恋の逃避行、バジルの狂言自殺を経てハッピーエンド至るまでのすったもんだに、理想の姫君ドゥルしネアを求めて放浪し、キトリをドゥルシネアと思い込むドン・キホーテとお供のサンチョ・パンサが巻き込まれる。

コジョカルのキトリが、とりわけ印象的だった。第一幕の街の広場の場面から全身を伸びやかに使った動きで、陽光きらめく舞台の上で、さらに一人だけ光があたっているかのよう。ジャンプの際の上体のひねりや視線使いの強いアピールはもちろんのこと、街の若者たちを軽くいなすような演技など、普段はなんということもなく見逃されていく部分が、彼女の手にかかると全て、オリジナルで意味のある表現に変わる。そしてその視線の先には、常にバジルがいるのである。



世界バレエフェスティバル『ドン・キホーテ』での、コジョカルとムンタギロフ© Kiyonori Hasegawa


そもそも『ドン・キホーテ』というバレエは、スペインを舞台とした豊かな異国情緒、登場人物たちのコミカルなやりとり、そしてダンサーたちが競うように繰り出す超絶技巧が見どころとなっていて、肝心のヒロインの愛という要素が意外に軽視されがちなところがある。だがコジョカルのキトリでは、恋人への思いこそが、すべてのステップやしぐさの出発点となっているように思う。そうでなければ、磁石が吸い付くような二人のパートナリングも、もはや「無敵のキラキラ感」としか形容しようのない彼女の輝きも、その出どころの説明しようがないではないか…最後の結婚式のパ・ド・ドゥは、それぞれの技のキレ、長いバランス、そしてムンタギロフが両腕を伸ばしきって彼女を高々と掲げるリフトの完成度等、技術的にも無類のすばらしさ。それが愛の成就の歓びに包まれて、熱を帯びつつもしみじみと感動的なフィナーレとなった。

ムンタギロフは、若々しく颯爽としたバジル。プロポーションにも容姿にもすぐれ、コミカルな演技も嫌味なくこなして、ちょっとそつがなさすぎるのではと思わせるほどだが、ここぞという場面での大技や力強いサポートには、男性的な魅力が溢れる。東京バレエ団のダンサーたちも身体を大きく、強く使っての熱演。特にキトリの求婚者ガマーシュ(梅澤紘貴)はくねくねと饒舌ながらエレガントな演技がじつにいい。キューピッドの松倉真玲の美しい脚、木村和夫の世俗の垢をさっぱりと洗い流したような上品なドン・キホーテも、印象に残った。(長野由紀)