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Manurl Legris. Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

マニュエル・ルグリ インタビュー
Manuel Legris

ウィーン国立歌劇場バレエを率いる元パリ・オペラ座エトワールに、マイク・ディクソンがお話を伺いました。

 ウィーン国立歌劇場の建物の5階にあるオフィスは、居心地がよさそうでよく片付いており、バレエ・スタジオにも近い。広さはそれほどでもないが、スタジオでダンサーと過ごす方を好むルグリにとって、それは問題ではないのだろう。長袖のTシャツにジーンズという黒でまとめた装いで、リラックスしているが同時に用意に気を許さない、その雰囲気。りゅうとした存在感と旧世代のエトワールならではの近寄りがたさは現役時代と同じだが、その鋭い青い瞳はオープンで、つねに目を合わせながら、こなれた英語で早口に話してくれた。
 ルグリがまず強調したのは、歌劇場本体に80人、フォルクスオパーにも24のダンサーを擁するバレエ団の国際性や、さらにはバレエ学校の生徒たちが果たす役割についてだった。「僕はバレエ学校の芸術監督も兼務していて、校長は、かつて『マノン』で共演したこともあるジモーナ・ノヤです。彼女は学校の事実上の責任者として、とてもいい仕事をしてくれています。バレエ団は、多くの卒業生を採用しています。同時に、最近はミラノ・スカラ座バレエ学校やロイヤル・バレエ学校からも大勢入団していて、カンパニーには大きな変化があります。プリンシパルには、東欧やロシアの出身者も多く、多彩で表面的でない力があるのが、ひと目で分かる。またヨーロッパ全土から、優秀で経験豊富なスタッフも集まっています。」

 「僕が芸術監督に就任したのが2010年の9月だから、今期で6年目になります。パリ・オペラ座の引退公演を2009年に終えた後、ウィーン国立歌劇場の芸術監督であるドミニク・メイヤーの誘いを受けて、すぐにこのポストに飛びついたわけではありませんよ。 まだ踊ろうかと考えていたし、先に、オペラ座にバレエ・マスターとして残らないかとも打診されていたので。ドイツ語は一言も話せなかったし、新しい言葉を習うのは難しいですからね!最初は少し不安でしたが、最終的には、これがベストな選択だと結論してドミニクに電話し、その3日後に公式に発表されたというわけです。」

 「就任は僕にとって大きなチャンスであり、多くを学んできました。その前に10年間、グループ公演をオーガナイズして、監督がこれからの進路だと自分でも意識していました。現在は、百人以上のダンサーの面倒を見ています。ウィーンでの仕事の仕方は、他とはかなり違いますね。チケットが高いし、地元の固定ファンや観光客は同じ演目を何度も観に来てはくれないので、プログラムの種類を多くしないといけません。必然的にレパートリーは増えますし、数回上演したら次の演目に移ることになる。それがダンサーにとっては、一シーズン中に多くの役を踊って成長するチャンスになるわけです。」

 「最初のシーズンには、自分の好みを反映して、しかもそれまでウィーンでは上演されたことのなかったバレエを選びたいと思い、新作も含むカンパニー初演作品を8つ上演しました。僕自身と関わりのある振付家の作品をウィーンで見せようと、はっきり決めていたのです。ダンサーと親しくなるためには、自分が知っているレパートリーを教えなくてはなりませんからね。でも同時に、オペラ座では上演されたことのない15人の振付家の作品も、これまでに上演してきました。ウィーンの観客は保守的で、夏に開かれるモダン・ダンス・フェスティバルであるイム・パルス・タンツを除けば、現代的すぎる作品は好まれません。当初、レパートリーはとてもクラシックでしたが、僕自身がイリ・キリアン、ポール・ライトフット、デイヴィッド・ドーソン、ウィリアム・フォーサイス、アレクサンドル・エクマンらの現代振付家とよい関係を保っています。現在では、『白鳥の湖』、ヌレエフ版の『ドン・キホーテ』と『くるみ割り人形』、アシュトンの『ラ・フィユ・マル・ガルデ』、マクミランの『マノン』と『うたかたの恋』、ランダーの『エチュード』などがレパートリーに加わりました。2016年3月には、ルイサ・スピナテッリの美術と衣装で、僕自身が『海賊』を作ります。じつは『海賊』も、ウィーンでは上演されたことがないんです。初めは誰に演出を頼もうか考えていたのですが、最終的に自分で手掛けることに決めました。僕自身にとっても、素晴らしいチャレンジですね。原曲に含まれていたのにバレエ上演には用いられたことのない曲も含めたリチャード・ボニング指揮の音源に、大いにインスパイアされました。彼がわざわざパート譜を送ってくれたことにも、とても感謝しています。」

 「ダニエル・プロイエットの『ル・シーニュ』を観て、新作を依頼しました。彼の才能を確信しているし、熱意とエネルギーも信じられないほど。振付家の中には、コンセプトはあってもヴォキャブラリーを持たない人もいますが、ダニー(ダニエル)は伝統への敬意を持ち、バレエという芸術とその歴史について熟知しています。彼のような人には、すぐコンタクトをとることにしています。団員の中にも、正真正銘の生え抜きであるアンドレイ・カイダロフスキーのように振付の才能を伺わせる若手の男性が3人います。そういう人材に恵まれていることは、幸運ですね。日本、パリ、ベルグラード、モナコ、サンクト・ペテルブルクにツアーを行い、毎シーズン15作品を上演して、とても忙しくしています。」

 ルグリはとても熱心に自身の仕事とダンサーについて話してくれたが、それゆえに、限られた休日をどう過ごしているのか尋ねずにはいられなかった。「ほとんどの時間を仕事に費やしています。劇場から10分、Uバーン(地下鉄)で2駅のところに住んでいますが、それだけ離れていれば、気持ちを切り替えるには十分。すてきなアパートメントを借りています。パリにもまだ住まいを持っていますが、そこは賃貸に出しているので、たまに週末パリに行くことがあると、母のところに厄介になるしかないですね。」どんな質問でもルグリが話を逸らすことなく、ためらうことも考えこむこともなしに答えるのには、驚かされる。彼は、あらゆることに対して本気なのだ。また、そのパーソナリティには明らかに気まぐれな一面があるが、本人も自覚していない自然な魅力があり、マナーもよい。初めて会うマニュエル・ルグリは、もう一度会いたいと相手に思わせる、カリスマ性の持ち主だった。(訳:長野由紀)