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ボリショイ・バレエ『じゃじゃ馬馴らし』(ジャン=クリストフ・マイヨー振付)でのウラディスラフ・ラントラートフ
Photo: Emma Kauldhar 

ウラディスラフ・ラントラートフー
Vladislav Lantratov

この夏のボリショイのロンドン公演でも大活躍したカリスマ的スターに、編集長エマ・コールダー がお話を伺いました。


 ウラディスラフ・ラントラートフといえば、洗練されたジークフリート王子や颯爽としたバジルが思い浮かぶ。ボリショイの初の訪英から60周年となるこの夏、ロンドンでもこの二役を踊った彼は、だがおとなしくそこだけに収まっているような器ではない。ジャン=クリストフ・マイヨーはボリショイ・ダンサーのステレオタイプなイメージを打破すべく、ペトルーキオを“ヴラド”(ラントラートフ自身、このニックネームで呼ばれるのが好きだという)にあてて造形した。慌ただしいシーズンの最中、クラスと『パリの炎』のリハーサルの間に幸運にもスタジオが空いて、インタビューが実現した。

 マイヨーが『じゃじゃ馬馴らし』の新版をボリショイから委嘱されたのは二年前。世界初演はもちろんモスクワ、その後モンテカルロでも上演され、ついにこの夏ロンドンにもお目見えした。

 ペトルーキオはどんな人物なのだろう?「まず第一に、悪い奴。女性に対する敬意を持ち合わせていないならず者で、男は女を殴っても蹴ってもいい、つまり何をしてもいいと思っているんです。でも話が進むにつれて、カタリーナに対する感情が芽生え、少し頭も成長する。そして、彼女を愛していると認め、愛によってましな人間になるんです。」手を上げる演技があるなら、リハーサル中に何かアクシデントがあったのでは?「一、二度、エカテリーナ(・クリサノワ)から顔面に肘打ちを食らわされたけど、深刻なことにはならなかったです。」

Bolshoi Ballet - Maria Alexandrova and Vladislav Lantratov in Don Quixote. Photo: Damir Yusupov/Bolshoi Theatre

結婚式に登場する場面では、見るからにへべれけだ。「はじめはどうしてもステップに気を取られたけど、役柄が自分の中で育っていくにつれて、演じるのも楽になっていきました。今はもう、どんどんやれますよ!」髪は、どうすればあんなにボサボサに?「簡単ですよ。グシャっとやればいいんです!」

 ラントラートフは、モスクワのバレエ一家に生まれた。両親はともにモスクワ音楽劇場バレエのダンサーで、二人の息子のうちもう一人も、かつてボリショイの群舞で踊っていた。「父のヴァレリーはプリンシパルで、『ドン・キホーテ』他いろんな作品を踊りました。母のインナ・レシュチンスカヤはキャラクター寄りのとても美しいダンサーでしたが、十年前、僕が17歳の時に亡くなりました。あのときは、本当に悲しかったです。」

 ダンサーはずっと憧れだった?「この家庭だと、選択肢はほぼなかったです。活発な子供だったので、両親も可能性を感じたんでしょう。でもダンサーになれなかったら、俳優になりたかったな。」

 実際、演技力は彼の大きな強みだ。2013年には、ボリショイの団員としては初となるオネーギン役を踊った。他にも、ラトマンスキーのバレエ『ロスト・イリュージョン』(1843年刊行のバルザックの小説『幻滅』に基づく)では作曲家リュシアンを、ノイマイヤーの『椿姫』では悲運のアルマン・デュヴァルと、19世紀の人物が当たり役だ。伝統的な王子役よりも、こうした役が好きなのだろうか?「全部が好きです。ジークルフリート王子だって、単なるおとぎ話の人物ではなく、演劇的で難しい役ですよ。『白鳥の湖』は悲劇的に終わるし、作品全体を通してその結末に向かって人物像を積み上げていかなくてはならない。複雑でドラマティックな役柄の登場する物語作品の方が好きだけど、古典バレエには敬意を持っています。だってそれ抜きでは僕たちには何もないんですからね。」 

ボリショイ・バレエ『じゃじゃ馬馴らし』(ジャン=クリストフ・マイヨー振付)でのウラディスラフ・ラントラートフ 
Photo: Emma Kauldhar 

 ロンドン・シーズンの士気は高く、ボリショイはやっとセルゲイ・フィーリンの悲劇から立ち直ったように見えた。ラントラートフ自身は芸術監督襲撃事件にどのような影響を受けたのか、聞かずにはおれないところだ。「全団員にとって、とても辛い状況でした。まるでバレエ団の中に壁があるような。どのようにして、また、なぜ事件が起きたのか、誰にも分からなかった。三年近く経った今でも、僕たちはあの事件を理解しようと努力しているんです。」

 3月にはマハール・ワジーエフが芸術監督に就任した。団内に変化は感じられる?「ええ、彼はとても熱心で、舞台稽古にはいつも来ています。群舞に力を入れ、ダンサーと一緒にいてよく話して。その成果はすでに上がってきて、変化の兆しを感じます。みんなが週6日、必死に働いている。それがダンサーの生活であり、バレエ学校時代から叩き込まれてきたものなんです。」

 さて、ではこの世の終わりの前に何か一つだけ踊れるとしたら?「全部いっぺんに…僕は、レパートリーのどれも大好きなので。」困り顔だ。では、相手役は?「それは絶対、マーシャ(マリーヤ・アレクサンドロワ)じゃないと。」

(訳:長野由紀)